*詳しく調べると正しくは3.45°とのことでしたので修正いたします*
- 山手線よりも高頻度
- 騒音・安全性・不動産価値 vs 経済成長
- サンディエゴはどんな空港か
- 正しくは3.45°だが, 季節によっては実質3.8°まで上がる
- デルタ航空が都心ルートを回避
- 忘れかけてた三角関数が使える
- 3:1は業界のゴールデンナンバー
羽田空港への進入ルートが変わる、ということで最近話題になっています。東京の山手側・新宿、渋谷、目黒から、品川区、大田区にかけて今まで機体がみられたことがなかった地域をヒコーキがででーんと横断するというもの。東京に行ったときにまたこんど写真が撮れたらここに載せようか、とも思いますが・・・
山手線よりも高頻度
南風が吹く日に, 1日のうちで一番忙しい3−4時間の間, 山手線の列車よりも高い頻度でヒコーキがやってくるようになるそうです。
新宿駅・山手線外回り・平日時刻表
https://www.jorudan.co.jp/time/eki_新宿_山手線.html?&Dw=1
ふむ。一番忙しい3時間の間に山手線は片側約20本/時の頻度でやってくるのですね。
AとC滑走路の間に住む方は44回/時 = 1分21秒に1回, ヒコーキがやってくるということになるのでしょう。ラッシュ時の山手線の内外両方の頻度と同じくらいです。わあ。
騒音・安全性・不動産価値 vs 経済成長
騒音がひどくなる、部品落下の恐れがある、不動産の価値が下がる、などという住民側と、羽田の発着枠を増やすことで東京のアジア(仁川や浦東)に対する競争力を維持・向上したいとの政府側の思惑が対立する構造です。
内陸型の空港である成田・伊丹では実に様々な問題がこれまでに発生してきましたが, 沖合展開を終えたはずの羽田がその複雑な問題たちの中に加わる格好になりそうです。数十年にわたる闘争がはじまるのだろうか・・・
音の問題なら時間が解決してくれ, そのうちなんとかなるようにも思えます。
1回でも大きな事故が起きれば, 取り返しがつかないことになり, 時間が解決してくれることはありません。
様々なネットの記事(英語)を読むことで, 標準の降下角 (Glide Slope) は3° だということがわかりました。アメリカの場合は2.75°から3.77°を標準とみなしているので確かに3.5°というのは標準的なのかもしれません。
ソース(2002年の文書)
https://www.faa.gov/documentLibrary/media/Advisory_Circular/AC120-29A.pdf
国交省は「他の人もやってるよ〜」感をだして説得を試みています。いかにも日本的な説得方法です。
- 3.5°の降下角は我が国では広島空港や稚内空港、海外ではサンディエゴ空港(アメリカ)やローマ空港(イタリア)等の複数の空港において採用されております。
Sponsored Links
サンディエゴはどんな空港か
降下角3.5°が運用されている空港として, 国内では広島や稚内と挙げられていますが・・・周囲は豊富な緑に囲まれていますので都市, というわけではありません。ローマは興味がないので調べませんでしたが, じゃあサンディエゴはどうなのか!?
アメリカ西海岸の最南端に位置する大都市・サンディエゴ。太陽が燦々と降り注ぐ素敵な町です。サンディエゴ空港は都心から近い場所に立地していて, 着陸がむずかしいということで旅行者にとっても有名です(調べるまでもなく, 地元の航空ファンには有名)。着陸のむずかしさは全米で10傑に入りますが, 都会の空港としてこの10傑に挙げられているのは3つだけ。
-New York - LaGuardia
-Washington D.C. - Ronald Reagan
-San Diego
ソース
https://www.telegraph.co.uk/travel/lists/revealed-the-hardest-us-airports-to-land-at/
複数の滑走路があるのが当然なアメリカの空港の中で, 滑走路1本で頑張っている忙しい空港, サンディエゴ (滑走路1本での発着数は世界3位, 1位はLondon-Gatwick, 2位はインドのMumbai)。降下角が厳しい・発着数が多いというのはありますがそれを原因とした事故は起きていないことが, 例として引き合いに出される理由と考えられます。
さて。
3.5°の降下角で運用するサンディエゴ空港は例えばこちらのリンクから入っていただければわかりますが, デルタ航空では小型機の運用がほとんどです。
San Diego Airport - Delta Air Lines Flight Arrivals - Today (12:00 PM to 05:59 PM)
B737ファミリー, A320ファミリーのほか, エンブラエルの175・・・全部小さいものばかり。大型機にはアメリカ大陸横断フライト用としてB757-200が運用されていますがこれも通路1本の細長い格好をしています。
正しくは3.45°だが, 季節によっては実質3.8°まで上がる
3.5°と国交省は発表していますが, 正しくは3.45°とのことです。夏場, 気温が40°Cになるようなときには3.8°程度まで角度がつく旨がこちらの文書に書かれています。
https://www.ifalpa.org/media/3496/20sab01-new-approaches-for-haneda.pdf
こちらIFALPA (International Federation for Air Line Pilots' Associations)という組合は100カ国100,000人以上のパイロットを ”代弁する” 団体なのだそうです。上記の文書を要約すれば「安全を第一に考える場合には羽田への新アプローチ方法には懸念がある」旨が述べられています。
3.8°になる理由:高温だと空気の密度が小さくなるため 高度計に誤差が生じるため
詳しくはこの動画の39分55秒から約2分程度で述べられています。ご興味があればぜひ。
デルタ航空が都心ルートを回避
デルタ、都心ルート運用見合わせ 羽田降下「通常より急角度」
という見出しがでた2020年2月。通常の3°が3.45° になるだけで大きく違うんだなあと考えさせられました。新聞記事のリンクは足が早いことが多いですが・・このリンクはいつまでもつだろうか?
デルタ航空の羽田便はいずれも大型機。通路が2つあるものがほとんどのようです。
ソースはこちら:
忘れかけてた三角関数が使える
何が標準なのか?3°と3.45°ではそんなに違うのか・・・?
確かに分度器で3°を測っても凄さは何も伝わりません。そういうときに使えるタンジェント。久々に聞きました、サインコサイン、タンジェント。
tan 3°, tan 3.45°, tan 3.8°をSiriに計算してもらいました。
tan 3°≈ 5.2% = 52‰
tan 3.45°≈ 6.0% = 60‰
tan 3.8°≈ 6.6% = 66‰
車を運転している人が6%という数字を見たらブレーキに気を付けようと思うだろうし, 鉄道好きが61‰という数字をみたらびっくりしてしまいます(そんな勾配は国内にはほとんどない)
検索結果からわかったのは忙しい空港の中で, 最も急な降下角を採用しているのは5.5°のLondon City Airportだということ。ロンドンの都心に近く, 少し遠いHeathrowなんかに足を運ぶ時間的余裕がない客をターゲットにしているとのこと。5.5°というのは恐るべき数字です。tan 5.5° ≈ 9.6% わあ。
この角度で着陸するためには特別な免許と特別な機体が必要なのだそうです。London City に着陸できるように設計されたブリティッシュ航空のA318(小型機のA320ファミリー)のLondon City - New York JFKという便があるようですが, たったの32席, オールビジネスクラスなんだとか。超多忙なVIPを扱う感じのフライトなんでしょうね。。
このLondon Cityを上回る角度で運用されている空港はこちらにまとめられています(もちろん, 小さな空港ばかり)
3:1は業界のゴールデンナンバー
こちらの記事には「3:1 で降りましょう」と書かれています。3 ノーティカルマイル(約5.6 km) 進むごとに1,000 ft (300 m) 下降するということらしいです。計算すれば勾配5.5%であることがわかり, これはだいたい3°と一致します。この角度を超えると, 乗客の快適性を失うことにつながり, エンジンへの負担が大きいのだそう。細かくうるさいことで知られる日本人によるクレームを抑えることも航空会社にとっては必要な判断なのでしょう。
外資系企業が日本から離れる理由のひとつが, 過剰なクレームへの対応断念だったりします・・「日本人はケチで低成長, 全く儲からないにもかかわらず客の要求がうるさい」
おっと、口が滑りました。笑
新しい羽田への進入ルート。事故が起こらないことを祈っております!